温泉・貸切露天風呂:新潟の温泉旅館「嵐渓荘」

2016年02月04日

「山彦」書評(心に残る物語)

「山彦」書評(心に残る物語)
記録的小雪の冬ですが、ようよやくまとまった雪が降りました。
ベテランかまくら師により庭の〝かまくら〟が完成しました。
2月〝かまくら月間〟にぎりぎり間に合いました。
ここから一ヶ月、夜の雪灯り演出のシンボルとして溶けないでいてください。

さて、今回は本をひとつご紹介いたします。
「本」といっても紙の本ではありません。
「電子書籍」です。紙では出版されていない電子の本。



気鋭の新人作家、(新潟文楽工房こと ヤマダ マコト さんの作品『山彦』です。
出会いは偶然。Twitterに嵐渓荘についての書き込みがあったのを発見。
新潟文楽工房ヤマダ @niigatabungaku
まさか、山彦の緑風館のモデルになっていた下田の嵐渓荘が山里亮太のお気に入りだとは


このつぶやきが気になって調べていくと、
新潟を舞台にしたサンカ小説『山彦』の反応
というまとめ記事に至り、自己出版作品に嵐渓荘がモデルとなった宿が登場するらしいと知る。
Amazonでさっそくダウンロードして読んでみました。


まず、上巻の表紙が「雨生の大蛇祭り」です。八木ヶ鼻を背景に私たちの祭りです。
「あれ、これは誰が姫したときだ?」とそこがまず気になりました。
空の感じと後ろにのってる男性の右腕の筋肉の感じからするとこれは2012年の祭り。
表紙を拡大してみると姫さんの顔はアイコラしてあるようです。
ふむ、と唸りながらページをめくりました。
 小説の冒頭は加茂市からの粟ヶ岳登山道にあるビジターセンターからはじまります。
夏の暑い盛りに草刈りをする老人が登山客向けの水洗トイレについて思案する風景。
地元の地名や施設がそのままストレートに登場するので、地元民として面白く読み始めました。でもまあ自己出版の作品ですから、申し訳ないけど作品自体はそんなに完成度高くないんだろう?と予想していました(失礼!)。読み終える頃には、この素晴らしき物語にどっぷりつかり、最初にそんな不遜な先入観があったからかもしれませんが、なおさらかえって大きな感動をもって本を閉じることになりました。
 管理人の老人が草刈りを終えると山ガールの美人フリーライターが登場します。実際にありそうな話で妙なリアリティ(なにより舞台が地元の風景なのでなおさら)を感じていると、漂白の民・山窩(さんか)、ヤツカハギという民俗学で目にするようなキーワードと燕三条地区を騒がす「連続殺人事件」の話題が登場してプロローグは閉じます。
 ミステリーで「連続殺人事件」はあんまり好きじゃありません。物語のために殺されるのは一人で充分だと思うからです。なので、上・中・下とあり長そうな小説で全部読むには時間かかりそうだなあと一旦読むのをやめてしまいました。で、電子書籍の便利なところで「嵐渓荘」が登場するところだけ探してみることにしました。「緑風館」という名前で登場するらしいので、それで検索するとサクッと登場箇所が表示されます。多少アレンジしてありましたが、ほぼ嵐渓荘のままでした。ニヤニヤしながら読みすすめていくと宿の主も登場したりします。私に会ったことがあるのか?というくらいリアリティがあり爆笑。それにしても…この本、読みやすいなあとプロローグと若干のひろい読み程度ですがそう感じはじめていました。
 緑風館という宿では夏祭りの日に山に暮らす「山彦」たちがやってきて、現代では珍しい瞽女(ごぜ)さんの少女が歌を披露していました。その描写は映像と音が目に耳に浮かぶようです。ムダのない話の展開とともに作者の奥に広い筆力を感じさせます。これは長いけど面白そうかもと閃くものがあり、最初に戻ってしっかり読んでみることにしました。
 全部読み終わるのに一週間くらいかかったでしょうか。地元が舞台ということもあり、地名や風景だけでなく登場する企業や政治家などにも興味が湧きました。はたして誰をモデルにしているのか?という謎解きを楽しめました。この物語はフィクションですから、すべて現実の団体や個人とは関係ないわけですが、作者はあえて意図して現実の企業名をもじって登場させたりして遊んでいます。市議会の描写は現実のパロディすぎるところもあり、ちょっとヒヤヒヤするところもありますが、その辺はフィクションなので笑って許してもらいたいところですね。緻密に計算されたプロットから物語を紡ぎ出すのがこの作者の得意とするところらしくスキのない展開は読者をだれさせません、またプロ作家と呼んでよいストーリーテラーのなせる技、物語りする視点を登場人物それぞれに入れ替えて描き出し読む者を飽きさせません
 面白いサスペンスミステリーが進行しながら、虐げられた民族の呪詛と近代的人権思想の相容れなさについて深い洞察のシーンがあり、酒呑童子などの新潟県(越後)に古くから伝わる伝奇や伝説などがモチーフに使われていたり、吉ヶ平から八十里越え、雨生ヶ池などの神秘的な雰囲気が河井継之助の史実とともに描かれていたり、そしてついには人が空も飛ぶ?(笑)。読んでもらえればわかりますが、かなり自由闊達で荒唐無稽なエンターテイメント小説です。なのに最後までリアルさをしっかり維持したまま読み通させてくれます。その力はなんなのでしょう?作者がこの辺のことにとても詳しい人だから?地道な事前調査の積み重ねがにじみ出ているから?作者の卓越した筆力のなせる技?少なくともこれら全部は当たっていると思います。作者の別の作品を読んでみましたが、自己出版のレベルではないですね。プロですわ。どこぞの出版社が紙の本でデビューさせてくれないものだろうかと思いました。
 偶然出会ったこの作品。自己出版の世界では話題になっているようです。作者のTwitterを眺めていると、それなりに売れてもいるようです。しかし、まず地元に知られていない。もったいないなあ。読み終えてから、本が好きな人にことあるごとに紹介しています。電子書籍なので読めないという方もあります。スマホがあればKindleアプリを無料インストールしてもらえれば読めます。もっと多くの方にこの面白い物語を読んで頂きたくてご紹介致しました。
Amazonでは上中下巻を合本したものも販売されてます。
下巻にも作者あとがきがありますが、
↓この合本版のあとがきはスペシャル版になってます。
「山彦」書評(心に残る物語)



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